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東京高等裁判所 昭和38年(う)1840号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を原判示(一)の罪につき懲役一月に、原判示(二)、三の各罪につき懲役七月に、それぞれ処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人諏訪栄次郎提出の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は、次のとおり判断する。

控訴趣意第二点について。

所論は、原判決が、その判示(三)の事実において認定した被害者今井栄吉の傷害の部位には、事実の誤認があるという旨の主張である。

なるほど、原判決は、被害者今井栄吉の傷害の部位、程度につき、全治約一〇日間を要する左側中指、小指側挫減創などと認定しているのに対し原判決挙示の医師小尾幸子作成の今井栄吉診断書には、「病名左側手背、小指側挫減創兼口腔内裂傷上記の者(今井栄吉)頭書の外傷を受け、全治約一〇日の見込」と記載されていることは、所論のとおりである。(なお、原判決は、所論援用の今井栄吉の司法警察員に対する供述調書を証拠に採用していない。)しかし、原判決挙示の今井栄吉の司法警察員に対する供述調書によれば、被害者今井栄吉は被告人の原判示(三)の所為により、その左側手背に傷害を受けたことを認めることができるし、また、前記診断書に「左側手背」とあるのを、原判決が「左側中指」と認定したのが誤りであるとしても、右被害者の受けたその他の傷害の部位および全治の見込については、両者全く一致しており、前記のごとき瑕疵は、判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、所論は採用できない。

同第三点について。

所論は、量刑不当の主張であるが、これにあらわれた被告人の年令、経歴、職業、生活態度、五回にわたる暴力事犯の前科、本件犯行の罪質、態様、その他の情状を斟酌すれば、被告人に対する原判決の量刑は相当であつて、重きにすぎるものとはいえないから、論旨は理由がない。

同第一点について。

所論は、原判決の引用にかかる起訴状記載の公訴事実の(一)と原判決挙示の前科照会書に記載されている昭和三七年一一月二七日に確定した罰金三、〇〇〇円の賭博罪とは、刑法第四五条後段の併合罪であるにもかかわらず、これを同条前段の併合罪にあたるとした原判決には、法令の適用に誤りがあるという旨の主張である。

そこで、審按するに、原判決挙示の前科照会書によれば、被告人は、昭和三七年一〇月一八日越谷簡易裁判所において、賭博罪により罰金三、〇〇〇円に処する旨の裁判言渡を受け、該裁判は同年一一月二七日に確定していることが認められ、また、原判決の認定した被告人の原判示(一)の暴行の行為は、昭和三七年一一月八日に、原判示(二)の暴行の行為は、同年一二月三一日に、原判示(三)の傷害の所為は、同三八年六月六日に、それぞれ行われたものであることがその判文上明らかである。してみると、右判示(一)の暴行の罪と前記確定裁判を経た賭博罪とは、刑法第四五条後段所定の併合罪の関係にあるにもかかわらず、原判決が、被告人の前記三個の犯罪を刑法第四五条前段の併合罪であるとし、一個の刑をもつて処断したのは、法令の適用を誤つたもので、その誤りは判決に影響を及ぼすものといわなければならないけれども、論旨は、右の理由にもとづき原判決が本件三個の犯罪を併合罪(刑法第四五条前段)とし、一個の刑をもつて処断したのを不当であるとし、確定裁判を経た罪と確定裁判を経ない罪の二罪として二個の刑を言い渡すべきことを主張するものであつて、被告人にとつて不利益な論旨に帰するものであるから、適法な控訴理由にならない。(昭和八年(れ)第一五二一号同年一二月一一日大審院第一刑事部判決、刑集一二巻二二九八頁参照)。

しかしながら、原判決には、前記のような違法があるから、刑事訴訟法第三九二条第二項に則り職権調査したうえ、同法第三九七条、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い被告事件について、さらに判決をする。

「罪となるべき事実」

原判決の罪となるべき事実を引用し、その末尾に、「また、被告人は、昭和三七年一〇月一七日越谷簡易裁判所において、賭博罪により罰金三、〇〇〇円に処する旨の裁判言渡を受け該裁判は同年一一月二七日に確定したものである。」を付加する。

「証拠の標目」 ≪省略≫

「法令の適用」

被告人の原判示(一)、(二)の各暴行の行為は、いずれも刑法第二〇八条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号、第二条に、原判示(三)の所為は、刑法第二〇四条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号、第二条に、それぞれ該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人には原判示の前科があるから、刑法第五六条、第五七条により再犯の加重をなし、原判示(一)の暴行罪と前記確定裁判を経た賭博罪とは、同法第四五条後段所定の併合罪であるので、被告人を同法第五〇条によりいまだ裁判を経ない原判示(一)の罪につき懲役一月に処し、原判示(二)の暴行罪と原判示(三)の傷害罪は、同法第四五条前段の関係にあるから、同法第四七条、第一〇条、第一四条により法定の加重を刑期範囲内において、被告人を原判示(二)、(三)につき懲役七月に処すべきものとする。

よつて、主文のとおり判決する。

検察官 伊藤嘉孝出席

(裁判長判事 小林健治 判事 遠藤吉彦 吉川由己夫)

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